しびれの症状に対しての
患者さんの表現方法の多様性の話はしていますが、今回も改めて実感する臨床体験でしたので、ブログにまとめて行きたいと思います。
言語学 患者さんの表現について記載した過去のブログ「手の痺れ」「手が動かない」「腕全体が重い」「指先に触れるとチリチリする」こういった症状の患者さんが診られ、3回ほどで治すことができましたが、この三回にわたる治療経験は、再度患者さんの表現に助けられていると言わざる終えません。
身体の理解について前進させていただきありがとうございました。
まず症例を先に述べて、それから認知心理学との関わりを説明したいと思います。
今日の心理学のキーワードは「クオリア」「ラディカル構成主義」
40代の女性、今朝からギックリ腰様の腰痛(左>右)があり来院されました。
しかし、一週間前から腕が重だるく、その後指先は痺れ、今朝から手が動かないという症状(左)。
趣味:バレエ・ヨガ どちらも健康のために行っている程度
仕事:普段は立ち仕事で手もよく動かす
腰の痛みは今朝起きてから起き上がろうとすると痛みが強く、屈む動作、寝返りの動作が辛い。
一週間前から様子はおかしかったが、ヨガをやっているうちに落ち着くと思いそのまま様子を見たが、今朝になって急に痛みが強くなった。
手の痺れは最初は腕全体から始まり、ビリビリとするのは指先だけ、手は指を挟む動きと手首を上に曲げるのができない。
整形外科では腰は慢性腰痛と数日前に診断。
手の痺れは手根管症候群だろうと湿布と薬を処方される。
以前から紹介され当院に、ぎっくり腰を機に来院。
この場合、現代の保険で行われる医療には限界があります。
腰の痛みと手の痺れの関連を細かく見ることができないからです。
経験的に、そして問診から同時期に発生しているこの症状は何かしら影響し合っていることが予測できましたので、腰の治療が手にどれくらい影響があるかを検査してみました。
可動域検査
肩関節屈曲:左90° 右120° 外転:左80° 右120°
股関節SLR:左20° 右30° 屈曲:左80° 右100°外転:左10° 右30° 内転:左15° 右15°
肘関節屈曲:左130° 右125° (左手の方が動きは重い)伸展:左5° 右5°回内:左40° 右35°回外:左40° 右45°
手関節背屈:左5° 右60°底屈:左70° 右70°尺屈:左10° 右30°撓屈:左5° 右15°
手の整形外科テスト
ファーレンテスト擬陽性(持続的に痺れがあるのと可動制限により痛みの増加有)
フローマン陽性
チネルサイン擬陽性(手根管については陰性。肘部管と橈骨神経のラインは触るとサワサワと広がる違和感がある)
筋力テストは、手関節背屈・虫様筋の筋力低下
正中神経の障害である手根管はあるかもしれないが、今現在、尺骨神経(虫様筋・フローマン)橈骨神経(手関節背屈)に異常がでていることから、もっと上位の例えば、首や肩の問題が考えられます。
整形外科によっては頸椎の問題と片付けるところも多いかと思います。
しかし、たしかに頸椎など上位の問題があるにしても、障害を受けている神経の部分は異なるため、肘や手の部分の影響で、障害を受けている神経が違うと予想できました。
そこで再度問診で得た情報を振り返ります。
手の痺れの感覚は「腕全体に重い」「指先がちりちりする」「手が上に反らない」「指と指を挟む動きができない(髪を正すような仕草で必要)」
→これは
神経障害のため、頸椎の問題から改善する必要がある。
肩の可動域の改善が認められれば、恐らく緩解する問題
→
正中神経の領域だが、
手関節の機能制限で付随する症状に近いイメージがある。(実際に手首が背屈できる様になった後に緩解)
→橈骨神経の問題であるが、同時に手関節事態にも問題が合った。(朝起きた時に手が変なところに合っておかしかった、という情報も説明している中ででてきたので、恐らく、神
経障害と関節の機能障害とが合併している状態)
→フローマン徴候と同様なので、尺骨神経が疑われます。
しかし、手関節を親指方向に曲げる撓屈と、小指の方に曲げる尺屈という動きもできなかったので、これも神経障害と関節の機能障害との混合
問診と機能障害とが一致したところで、上肢の機能制限がでた関節の動きを調整して行きます。
さて頸椎の問題に戻ります。
頸椎というのは体幹の土台の上に乗っている存在です。
土台が傾けば頸椎は歪むのは当たり前です。
今回の症例に当てはめると、腰の痛みと同時期に神経症状がでていることからも、腰と首の関連を考えるのは必須です。
全体を見渡すと、患側の左の腰に骨盤が傾いており、胸椎(背中の背骨)の下部も左に傾く様にカーブ(右凸)しており、その分だけ、首の付け根の部分から右にカーブ(左凸)になっています。
治療前に、まず腰の骨盤の傾きを補正すると左肩の可動域がほぼ正常にまで改善したので、腰が治ると、神経痛がだいぶ治まることが予測できました。
ここまで最初の段階で予測ができると、早く治せるので
腰→首→肘・手
という順序で治療すれば良くなることがわかります。
各関節の治療方法については今日は説明せずに、認知心理学の「クオリア」と「ラディカル構成主義」に触れたいと思います
「クオリア」色の質感でよく表現される言葉で、「赤いリンゴ」を見てもその赤は見る人によって千差万別です。
その一人一人が感じている赤の質感をクオリアと言います。痛みも同じです。
『腕が重くて上がらない状態』これを「痺れた」と表現する人もいれば、「腕が上がらないんです」とだけ表現する人もいます。
人に動かされた時にやっと重いということを認識することもあります。
『チリチリする』これを「火傷したみたい」「小さな針でつつかれているみたい」「痺れた」と表現する人など様々です。
『力が入らない』これを「人の手みたい」「手の先がないみたい」「痺れた」とよく日常的に患者さんからの表現を聞きます。
それぞれ異なる状態でも「痺れた」と同じ表現されるのです。
痺れという言葉に対する質感というのは本当に様々です。
そしてこの現象を医療従事者が患者さんに対しての表現を客観視する時にも言えることで、外部客観世界のありさまを人間の認知活動は直接見いだすことはできないように、医療従事者の内部にある世界のイメージで構成してしまいます。
今回は結果的に、私の内部イメージが患者さんの状態と近いために良くすることができましたが、もし治療が上手く以下なった場合は、もう一度患者さんの感覚を聴取し、評価と治療計画の変更をしなければなりません。
大切のなのは、治療してみた結果を自分の世界イメージに適応させることです。
うまくいけばそれでよし、失敗すれば、概念構造を変えること。こういったことを唱えた心理学が、ラディカル構成主義と言われています。 長らくお読みいただきありがとうございました。
手の痺れや痛みで苦悩する方のお力に少しでもなれれば幸いです。
西村公典
東京都港区芝5-27-5山田ビル503
03-6435-2437
nishimura@hari.space